平筑紀行2019秋 交通網の持続可能性について




0:
筆者は、先の(2019年4月改選)統一地方選挙・参議院選挙のネタをソーシャルメディアなどでチェックする過程で、
『鉄道=ライフラインのひとつという考え方で捉えた方がいいのではないか』
『交通機関の問題=『ライフライン』の問題という発想から始めないと後世に大きな禍根を残すんじゃないか』
という話をある方としていた。

筆者がこの意見交換の過程で思い出したのは、平成筑豊鉄道(平筑)のことである。
1989年にJRより田川・糸田・伊田の3路線を引き継ぎ、かつて炭鉱の集積地として繁栄したものの、産業構造の変化により日本版『ラストベルト』と化しつつある筑豊地方で30年間事業を継続してきた。
2019年の皇室の代替わり(『天皇』の明仁親王→徳仁親王への交代)の便乗企画の『ありがとう平成1日フリーきっぷ』が発売されたので、ネタを振った責任(?)もあり、購入し、後日乗車することにした。

(余談:一度ツイッターのアカウントを抹消してみてわかったが、選挙ネタや災害関連情報についての速報性のある話題や既存の大手メディアでなかなか追いかけにくいであろうネタのチェックのためには、ソーシャルメディアの存在が重要になりつつあることに気づいた。
5ちゃんねる(かつての2ちゃんねる)などの『掲示板』は、多くの利用者がソーシャルメディアに流出していることや、『荒らし』(ネットトロル)の安住の地と化していて、利用価値は低くなっている。)

1:
梅雨や酷暑を避け、9月下旬の職場のシフト上の休日に合わせて乗車日を決めた。

当日は高速バスで入るか篠栗・筑豊線(JR)にするか迷ったが、時間やダイヤの関係でJRで入ることにした。
当日の乗車ルートは
・直方駅→金田駅
・金田駅←→田川後藤寺駅
・金田駅→田川伊田駅→令和コスタ行橋駅→直方駅
であった。

午前10時台の直方発の便に乗ったが、当日は想像したよりも乗客が少なかった。
朝ラッシュ後の午前の時間帯は、福岡都市圏であれば商店街や病院などへの移動や買い物客(特に高齢者層)の利用が多い時間帯であるが、直方からの便は乗客自体が少なかったのが意外であった。
たまたまそうだったのかもしれないし、逆の直方行きだと多かったのかもしれない。
この時乗車した1両のディーゼル車の車中には『ちくまる』(イメージキャラクター)のLINEスタンプの案内や、座席に『ちくまる』の柄があった車両だった。

金田駅(福智町)で田川伊田方面に乗り換えた。
金田駅の枕木には、『枕木オーナー』の銘板が入っているものが多くある。
個人名であったり、地元企業であったり、平筑の取引先(平筑に車両を納入している新潟トランシスなど)であったり、という具合である。
駅に併設されている車庫には、レストラン列車『ことこと列車』が(点検・整備のためと思われるが)止まっていた。

平筑の収入源として、以前『枕木オーナー』や『吊革のネームプレート』の存在を聞いていたが、LINEのスタンプやレストラン列車というものも宣伝・増収の施策なのだと思った。

国道200・201号および県道の整備が進んだことや日本の車社会化の進展で、人々の『動線』から外れてしまった格好のローカル鉄道。
金田駅の前も、ご多分に漏れず当日の午前中は閑散としていた。

2:
平筑沿線の一部の駅には、副名称として『(スポンサー名)+本来の駅名』が付けられている。
『ミスターマックス』(小売店チェーン)が田川後藤寺・田川伊田両駅の命名権を持つことをご存知の方は多いかと思うが、他にも赤池・大藪・豊前大熊などの駅もミスターマックスや地元事業所などが命名権を持っている。
また、中泉や糸田には理美容室がテナントとして入っている。

昼食時間帯に田川後藤寺駅で下車し、周辺を歩いてみた。
モータリゼーションの影響もあり現役世代やファミリー層が自家用車に流れ、イオンモールなどのショッピングモールで買い物を済ませる時代になり、買い物客どころか大半の人々が立ち寄る機会が少なくなったであろう駅前の商店街はシャッター街と化していた。人通りは極めて少ない。
シャッターを開けている店は数えるほどで、筆者の地元の西新商店街や生まれ故郷の熊本市の上通・下通界隈と比べると、その差は明らかである。
公的年金の支給日に合わせたイベントの看板が出ていたが、シャッター街状態の現状でどれだけの売上アップにつながっているのだろうか。
後藤寺の商店街でパンを買い、軽食をとることにした。
折り返し金田駅へ戻り、田川伊田方面へ向かった。

3:
田川伊田で下車。
田川伊田の駅舎は3階建ての建物である。
近年改装されたが、運営会社の資金難で『ハコ』だけになるところだったらしい。が、小さなホテルがテナントとして入居することになった。(2019年9月に開業)
駅前の商店街は、後藤寺同様シャッター街状態であり閑散としていた。
喫茶店巡りが性に合う筆者は伊田の商店街で喫茶店を探してみたが、商店街の出口にあったインドカレー店を偶然見つけランチセットを食べることにした。
ライス・キーマカレー・ラッシーのセットにしたが、インドカレーはナンかインディカ米が合うと思った。(美味しかったが)
その後スナック街を歩き田川伊田駅に戻る途中、茶店のたい焼きを購入した。
たい焼きの店については、地元のフリーペーパーでも紹介されていた。また、RKBなどのテレビ番組でも度々紹介されているようである。

4:
昼食後、田川伊田→令和コスタ行橋まで乗車。
『令和コスタ行橋』は元々『コスタ行橋駅』として、ショッピングモール『コスタ行橋』の東側・ヤマダ電機の裏の場所に2019年春開業する予定であったが、2018年の豪雨などの影響で開業が延びたところに『改元』という一大イベントが重なり、便乗企画的に『令和』を後付けで付けることになったようである。
駅は木造の小さな待合室とフリースペースが設けられている。
デザインは水戸岡鋭治・ドーンデザイン研究所が担当している。

元々あった『コスタ行橋』は国道沿いにあり、車での来客が主のようである。
地方都市によくあるショッピングモールの様相であり、自家用車が結構な数止まっていた。
日本の地方都市の『車社会』の典型的な、日常的な風景であった。
『令和コスタ行橋』駅は、車を持てない・運転できない人々が地方都市でも増えていくとすれば、今後利用者が増えていく可能性はありそうだ。
そして、脱・車社会志向の一例となり得るか。

直方方面の待ち時間に『ハローデイ』(スーパーマーケット)を覗いてみたところ、塩秋刀魚がおそらく例年より小振りで一尾298円、焼き秋刀魚は二尾で400円程であった。2019シーズンは不漁が伝えられており、その影響かと思われる。
また、ほうれん草のパックが例年より高値のような印象があった。夏季の大雨などの天候不順のためと思われる。
『生もの』(生鮮食料品)の相場は、天候や季節変動、自然環境の影響を直接受けやすいものであり、加工食品は比較的自然環境の影響を免れるものであるが、加工食品も今後消費税率の改定が物流網に及ぼす影響が出てくる可能性はある。

5:
夕方、令和コスタ行橋より直方行きに乗り、博多駅へ戻ることにした。
新豊津から田川伊田・金田などで育徳館高校(旧称・豊津高校)や田川高校などの通学客が多数乗降した。
高齢者・車社会で車を使えない人々、学生の『足』である現実。
平筑のダイヤは、金田駅基準でみると朝は6〜7時台の運行本数を増やしている。これは沿線の高校の授業時間帯(福岡県内では『朝課外』と呼ばれる、実質上の正規の時間割)に合わせたダイヤは組まれている。
都市圏の通勤時間帯の8時台よりやや早いラッシュ時間帯のようである。

比較のために駅近くの西鉄バス筑豊やコミュニティバスのバス停で時刻表を見てみたが、多い路線でも1時間1本、最終便も早い時間帯で設定されている。
また、コミュニティバスに至っては1日数本の系統もあり、日常の足としては便利がいいとはお世辞にも言えない。
基本的に病院の開院時間や温泉施設の営業時間帯に合わせているようだが、地元の人々の動きが夜は少なくなるということもあるようだ。
西鉄バス筑豊(および西鉄グループの路線バス)は路線再編が進んでいて、最近飯塚地区でも路線廃止があった。かつての国鉄やJRからの転換路線も例外なく路線再編の対象となっている。
西鉄グループの路線バスは、福岡都市圏であっても減便がある地域があると聞いているが、労働環境・道路環境(構造的なものや交通マナーというものの問題)もあって、『労務減便』も生じているようである。

6:
筆者は15年程前にも平筑に乗った記憶があるが、その記憶を残す手段が乏しかった。
今回、車社会と化している地方の現実を改めて目の当たりにしたが、車のない人々のアクセス権、というか『足』の確保の保障のためには、バスやタクシーや鉄道などの交通機関の選択肢は複数必要であると思う。

タクシー業界に身を置いている筆者の雑感だが、
交通機関がA←→Bの往復を走る場合
・A→Bで乗客なり配達物があれば運賃収入があるが、その逆のB→Aが『空車』であれば効率がよいとはいえない。
・A→B、逆のB→Aの双方向で乗客や配達物があれば両方分の運賃収入があるので効率はよくなる。
平筑の場合、直方・田川伊田・田川後藤寺・行橋という、パソコンのネットワークの結節点である『HUB』的存在の都市があるので、往路・復路で時間帯次第だが乗客の利用が見込める。
これが一方通行的な人々や物の流れであれば、効率はよいとはいえず、儲けが少なくなれば、乗ること・使うこと自体を目的にしないと運輸事業継続そのものがキツくなる。
(例:各地の観光鉄道や観光列車、廃止された鉄道の中で特に惨憺たる結末を挙げるのであれば、かつての野上電鉄
参考: https://white.ap.teacup.com/dt200a/1059.html )

災害時には人々の移動や物資の供給経路を確保するためにどれかが止まっても他の選択肢を選べるようにする必要があるのだと思ったが、私たちは『バス・鉄道・タクシーがなければマイカーがあるからいいじゃない』と思いがちである。
マイカーが故障などで使えないときどうするのか、運転できなくなったらどうするのか、事情があって交通機関の便利がよくない地域を離れることができない事態になったらどうするのか、ということに関する想像力が欠けるのが私たちの常である。
そもそもの話だが、公共交通機関は地元の人々に日常的に利用され、地元から愛される存在であり続けるというプレッシャーを受け続け、地元から見放されれば事業そのものが成り立たなくなる、というものである。
地域住民の生活や地域の政治・経済・社会・地域そのものと一体不可分で、人々と違って地域から離れることがほぼ不可能であるという点で、電気・ガス・水道などのインフラ事業に似ており、地域の交通機関の運営はビジネスというよりもライフラインとして考える必要がありそうだ。

なお、日本の交通政策において、特に都市でのマイカーへの規制が一種のタブーとされている感があるということも忘れてはいけない
これは、自家用車などの自動車所有者が、特に地方の多数派となっている現状からみて、多数派に配慮した政策が実行されていることもあるのだろう。

参考:




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