【読書感想】フィッシュ・アンド・ヤクザ #サカナとヤクザ


漁業の世界に深くヤクザが関わっている現状について、かねてより筆者が注目していたライター・鈴木智彦さんが文字通り『身体を張って』長年取材し、この度『サカナとヤクザ』として刊行された。

漁業の世界は、自然環境、とりわけ海というリスクが大きい環境下で私達が食べている魚介類を採りに行く以上、荒くれ者が多い世界になる。
採れるものは採れる時に採れるだけ採る、宵越しの金を持たない傾向があったこと、腕力勝負になりがちなコミュニティにおいて、ヤクザが関わってくるのは必然だったのかもしれない。

北海道や東北地方太平洋側のアワビやナマコの密漁、東京・築地市場の光景と人間模様、千葉県銚子市の漁業にまつわる現代史、道東根室管内と『北方領土』における『レポ船』『特攻船』の話、『絶滅危惧種』とされたウナギの流通ルートの話、が本書の大きなテーマである。

当邦の漁業政策について、以前勝川俊雄さんの投稿を拝読したことがあるが、資源を管理するという発想の転換が進まず、採れる時に採れるだけ採ることを繰り返してきたことが問題だと認識したのである。

先般、当邦が(運営上種々の問題があったようだが)IWCを脱退するというニュースが駆け巡った。
これの遠因に、上記の漁業政策を前提としていることもあるのではないかと思ったのである。
それ以前に、日本人そのものの弱点として『暗黙知』が通じると思い込んでいることもあるように思える。

自分たちは『適切な』法制度を整備し運用している、だからいちいち言わなくても分かるだろ、という感覚があるようだが、それが日本国内で通じても、腹を割って・胸襟を開いて・常日頃説明できるように鍛えられることが要求されるであろう国際社会でそれをやると早晩行き詰まるのではないか。
その行き詰まりが、結果として第二次大戦の悲劇的結末だったということが分からないのだろう。

筆者の趣味はスクーバダイビングだが、密漁現場の夜の描写や港での『ダイビング』の話、密漁者の道具類の競売の話でタンクやレギュレータなどダイビングでお馴染みの各種機材の名前が出た時『あぁアレか』とピンときた。
タンクの容量の話では、リットル数と潜水可能時間の関係が出てきたが、あの数字は実際潜るとほぼその通りの結果になるのである。
筆者の場合、8リットルで約40〜50分、10リットルで約50〜60分潜水可能なので、14リットルで約90分というのはあり得る数字である。
もっとも、潜水そのものもだが、夜間の潜水は特に事前のレクチャーが重要である。
事故も時折あるようだが、知識なり機材なり経験がこの密漁の世界でも要求されるのである。

私達の世界からヤクザを綺麗さっぱり切り捨てたり排除できるのかと言われれば、それはほぼ不可能なことだという前提で物事を考える必要がある、と思った。

ヤクザの取材を続けることについて、『終焉を見届けたい。っていうのが一つですよね。ヤクザって言う形態がなくなることは間違いなくて。』と述べた鈴木さん。
参考:https://blogos.com/outline/345125/
おそらくヤクザに似たようなものや後釜的なものは出てくるであろうが、ヤクザの世界の変化から現代社会の変化を読み取ることができるかもしれない、そう思わせる著書であった。

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